知っておきたい医療制度のしくみ
日本の社会保険制度には、医療保険、介護保険、年金保険、雇用保険、労災保険の5つがあります。今回は病気やケガをした際に知っておきたい医療保険に焦点を当ててみましょう。
日本の医療保険は、国民皆保険制度を採用しています。国内に住所のある者は、何れかの医療保険に加入するルールです。具体的には、企業の従業員が加入する「健康保険」、自営業者や定年退職者が加入する「国民健康保険」、そして75歳以上が加入する「後期高齢者医療制度」の3つの枠組みがあります。
会社員は健康保険(協会けんぽ or 組合健保)に加入します。
企業で働く75歳未満の従業員(被用者)とその家族(被扶養者)は、協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険:中小企業が中心)または組合健保(組合管掌健康保険:大企業が中心)のいずれかに加入しています。加入は従業員自身ではなく、勤め先によって決まります。
給付の対象は、業務外の病気やケガ、出産、死亡などで、治療費の3割(原則)が自己負担です。一方、毎月の保険料は会社と従業員で折半しています。(組合健保の保険料率は組合の規約で決定され、協会けんぽの保険料は都道府県ごとに異なります)
自営業者や定年退職者は国民健康保険の対象者です。
75歳未満の自営業者や非正規雇用者、定年退職者などは、国民健康保険の加入対象者となります。国民健康保険には、市町村(都道府県)が保険者になるものと、同業種の個人を対象とする国民健康保険組合の2種類があります。給付内容は、療養給付や高額療養費、出産一時金などがあり、自己負担の割合は健康保険と同じです。
また、国民健康保険は健康保険とは異なり、業務上の疾病やケガについても保険金が支払われます。保険料は、医療分、後期高齢者支援金分、介護分(40~64歳の方のみ)に分けられ、それぞれに所得割額、均等割額(×人数)、平等割額(1世帯)に按分して算出されます。
例えば、世帯主(40歳)の所得割算定用所得が250万円で、専業主婦の配偶者(40歳)がいる場合を考えます。
(注)所得割算定用所得は確定申告の所得金額から43万円の基礎控除を引いた金額です。保険料率は条例により市区町村で異なりますが、令和6年度の兵庫県の保険料率を使用します。
・医療分=所得割額(250万円×0.0816=204,000円)+被保険者均等割額(29,736円×2人分)+世帯別平等割額(1世帯18,780円)
・支援金分=所得割額(250万円×0.0324=81,000円)+被保険者均等割額(11,652円×2人分)+世帯別平等割額(1世帯7,368円)
・介護分=所得割額(250万円×0.0336=84,000円)+被保険者均等割額(12,576円×2人分)+世帯別平等割額(1世帯6,144円)
以上の算式から、国民健康保険の保険料は509,120円(医療分282,252円+支援金分111,572円+介護分115,296円)になります。
国民健康保険には、被扶養者の概念はなく、被保険者一人一人が保険料を払います。この場合、所得があるのは世帯主だけなので、所得割分(医+支+介)は全て世帯主の負担です。
一方、被保険者均等割額と世帯別平等割額は夫婦で折半します。結果として、保険料の509,120円は世帯主の保険料439,010円と奥様の保険料70,110円に分けられます。所得がなくても、均等割額や平等割額は発生するため、保険料の負担は高く感じられます。
※保険料率や具体的な計算は地域によって異なるため、詳細な情報は各市区町村の保険課にお問い合わせください。
退職後の医療保険には選択肢があります。
退職後は、自分で国民健康保険に加入するか、子や配偶者などの被扶養者になるかを選択します。ただし、条件を満たせば、引き続き会社の健康保険の被保険者として残ることもできます。
これは「任意継続被保険者制度」と呼ばれ、退職の翌日から20日以内に申請すれば、最長で2年間健康保険の被保険者として継続できるしくみです。ただし、保険料は会社との折半ではなく、全額自己負担となります。
市区町村の窓口では、「国民健康保険」の保険料と「任意継続被保険者制度」の保険料を比較できます。最初は任意継続被保険者制度を選んでいても、所得を考慮して途中から国民健康保険に移行することも可能です。選択肢をよく検討して、自分に合った保険制度を選んでください。
治療費が高額でも、自己負担には上限があります。
「高額療養費制度」とは、1カ月の医療費の自己負担額が一定基準を超えた場合、超過額が戻ってくるしくみです。ただし、食費や差額ベッド代、先進医療などの保険対象外の費用は、計算に含まれません。さらに、1年間に同一世帯で3カ月以上高額療養費の支給を受けた場合、4カ月目から自己負担限度額が下がります。
※負担額をさらに軽減するしくみ(世帯合算や多数該当など)もあります。
年収400万円の人が、医療費の総額が1カ月に50万円かかった場合を考えてみましょう。
自己負担は30%なので、医療費50万円×30%=15万円が本来の負担金額です。一方、自己負担限度額は、表の「ウ」に該当し、80,100円+(500,000-267,000)×1%=82,430円 になります。つまり、自己負担限度額(82,430円)を上回る67,570円 が戻ってきます。
また、70歳未満の方は、健康保険限度額適用認定証(事前申請)を提示して、窓口の支払金額を自己負担限度額までに抑えることもできます。
75歳になると後期高齢者医療制度に移行します。
これまで加入していた健康保険や国民健康保険は75歳で脱退して、その後は「後期高齢者医療制度」に加入します。保険料は均等割と所得割の合計で計算され、保険料率は都道府県により異なります。納付方法は、年金からの天引き(特別徴収)が原則ですが、年金が年額18万円未満の場合は口座振替(普通徴収)も可能です。
自己負担の割合は所得に応じて1割、2割、3割に分かれます。ただし、老齢年金(公的年金控除後)は所得に含まれますが、遺族年金と障害年金は非課税のため、含まれません。
以前の自己負担は1割と3割だけでしたが、令和4年10月1日に2割負担が追加されました。その配慮措置(外来のみ)として、令和7年9月30日までの間、1カ月の負担増加額が3,000円までに抑えられています。たとえ窓口で2割払っても、高額療養費として余分に払った1割分(3,000円迄は負担)は3ヶ月後に返金されるしくみです。
《周知のための病院ポスター》
最後に
万が一、肺炎や心筋梗塞などで救命救急センターに運び込まれると、病状によっては100万円以上の治療費が発生します。しかし、高額療養費制度のおかげで、国民の自己負担は概ね数万円程度(保険適用分のみ)で収まります。
一方、手厚い医療制度を守るために、日本は毎年国債を発行しており、その発行残高は2024年度末には1,105兆円(普通国債)が見込まれます(財務省HPより)。手厚い医療制度は、国民の負担なしでは成り立たないのが現実です。
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